トヨタ86(ハチロク)蘇る話題のスポーツカーその人気の秘密とは?
スポーツカーの楽しさを伝えるトヨタ86
2009年の東京モーターショーに登場した、FT86コンセプトと名づけられた1台のショーモデル。そのクルマに日本中の自動車ファンが熱い視線を送りました。
「これはハチロクの再来か?」
「本当に発売されるのか?」
それから3年後の2012年2月、トヨタ86は正式に発表され、同年4月から発売が開始されました。
MR-Sが2007年に生産中止となってから、実に5年ぶりにトヨタから新しいスポーツカーが登場したのです。
スバルBRZと言う名の兄弟車を持つ86。このクルマは、トヨタとスバルが互いの技術を結集し「BUILT BY PASSION , NOT BY COMMITTEE!」(合意して作るのではない、情熱で作るんだ。)を胸に、熱き想いから生まれた、新時代のスポーツカーです。
クルマの楽しさを伝えるための存在として
かつては、トヨタをはじめ他メーカーからも、様々なタイプのスポーツカーがラインナップされていました。
しかし、ミニバンに代表される多人数乗車や安全性、更には経済的合理性が強く求められるようになり、スポーツカーは、1台また1台と姿を消してゆきました。「若者のクルマ離れ」などというフレーズまで生まれる状況の中、クルマに興味を失ったユーザーに、もう一度クルマの楽しさを伝えるには、どうすればいいのか。
トヨタは、新しいスポーツカーを世に出すことで、その答えとしました。
新しい86を開発するにあたって重視されたのは、かつてのAE86のように、多くのチューナーやユーザーによって育てられてゆくスポーツカーにしようということでした。そういう素材としての魅力を持ったスポーツカーにしたい。
リッター100psにこだわったエンジンと、軽快なトランスミッション
エンジンはFA20型自然給気エンジンで、200psの出力を7000rpmという、高い回転数で発揮します。
開発当初から、エンジンは自然給気と決め、ターボによる高出力には頼らないことを明確にしました。
これは、絶対的な速さよりもアクセルに対する自然なレスポンス、エンジン回転が上昇するときの高揚感を重視したためです。しかし、その一方でスポーツカーとしての速さも欲しい。導きだされたのは、2ℓ自然給気でリッター当たり100psを実現するというものです。
当時、スバルではFB20型と名づけられた、新しい2ℓ水平対抗エンジンが開発中でした。当初はそのエンジンを使い、出来るだけ低い位置に搭載すればいいのでは、というような意見もあったようです。
しかし、FB20のボア・ストロークは84ミリ×90ミリで、ガソリンはポート噴射です。ポート噴射でリッター100psを出すには、7600rpm以上の高回転が必要で、燃費が著しく悪化することと、そもそも、給気バルブの面積が足りず、リッター100psの達成は現実的に難しいことが分かります。
そこで、ボア・ストロークを86ミリ×86ミリのスクエアエンジンとし、そこにトヨタの持つ直噴技術、次世代型D-4Sを組み合わせるというアイディアが生まれます。目指したリッター100psはこうして達成されました。スバルは、このクルマのために、エンジンを設計からやり直し、トヨタは自社で開発したD-4Sの技術をスバル側に公開することになったのです。
このエンジンを思う存分味わってもらうため、86ではサウンドエフェクターという技術を使って、エンジンの吸気音を心地よく車内に聞かせるような工夫もなされています。
86のエンジンは、既存のエンジンを「ちょっとチューンして」載せた、などというものでは決してありません。
トランスミッションは、6速MTと、6速ATが用意されています。
MTは、徹底的にシフトフィールと短いストロークにこだわっています。1~3速には、トリプルシンクロを使うなどして、操作の軽さと節度感を併せ持つ、スポーツカーにふさわしいものになっています。
ATは、レクサスIS-FのスポーツシフトATの技術を使った6Speed ECTで、、電光石火のシフトチェンジを誇ります。フルロックアップの領域を広げ、非常にダイレクト感のあるシフトチェンジを実現し、トルコンならではの発進のスムースさも併せ持っています。もちろん、パドルによるマニュアルシフトも楽しめ、ブリッピング機能も備わります。
鋭く低く構えたエクステリアデザイン
デザインは、一見してスポーツカーと分かる普遍的な機能美を目指しました。
水平対抗エンジンを得たことで実現した重心の低さを、視覚的にもはっきりと分かるデザインとなっています。
車体全体を低くすることで、自然にせり上がるフェンダーに大きな抑揚をつけ、ホイール付近の存在感を高めています。とくにリアフェンダーの張り出し感は豊かで、絞られながらリアへ向かってゆく流れは、リアタイヤが地面を蹴ってゆく躍動感を表現しています。
フロントビューは、トヨタが「キーンルック」と呼ぶ、知的で明晰な印象を与えるデザイがンコンセプトです。小ぶりなヘッドライトは、鋭く睨み付けるようなイメージを与え、ラジエターグリルはスクープ形状で、高性能車に必用な高い冷却性能を感じさせます。
リアビューは、フェンダーの抑揚がトランクリッドまで続き、その下に小さなテールランプが備わります。
このラインは名車トヨタ2000GTを彷彿とさせ、高い位置まで持ち上げられたディフューザーと相まって、スポーツカーが走り去るときのカッコよさをストレートに表現しています。86のリアビューは、数あるトヨタのスポーツカーの歴史の中でも、出色の出来と言えるでしょう。
軽量・高剛性のボディと足回り
86は、エンジンフードのアルミ化をはじめ、ルーフやピラーに超高張力鋼板を採用し、軽量化と低重心化を図っています。燃料タンクまでも軽量な樹脂製です。また、ボディーを構成する各部材同士の結合構成を最適化し、高いボディー剛性も実現しています。
サスペンションは、フロントがストラット。リアにはダブルウィッシュボーンを与えています。スポーツカーで重視される前後の重量配分は53:47と、わずかにフロントヘビーとしました。アクセルワークによるクルマのコントロール性に重きを置き、コーナーリングの楽しさを味わうための数値であり、敢えて50:50とはしていません。
機能美を持たせたインテリア
86のインテリアはシンプルです。インパネは水平を重視したデザインで、運転中クルマの傾きが容易に把握できるようにしています。大きな回転計を中央に配したメーター類の視認性も良好で、燃費やシフトポジション等のインフォメーションが備わります。REVインジケーターを回転計内に配置し、任意にセットしたエンジン回転数に達すると、ランプとブザーで知らせます。
シートもホールド性を重視し、コーナーリング中の体の滑りを低減する表皮を使っています。MT車においては、ヒール&トゥを容易にするため、ペダル配置にもこだわりました。
ショールームでシートに腰を下ろしただけで、その低さにちょっとした非日常感を味わえます。
シンプルな3つのグレード
グレード構成は、上からGT Limited , GT , Gの3つです。
GT LimitedとGTのホイールサイズは17インチで、リアブレーキがベンチレーテッドディスクとなります。Gのホイールは16インチで、リアブレーキは標準のディスクです。またGT LimitedとGTには、トルセンLSDが標準となりますが、Gには備わりません。FRスポーツカーの走りを味わうために、LSDは外せないところです。
GとGTとの価格差は40万ほどですが、ここは是非GTをチョイスしてほしいと思います。さらにGT Limitedには、リアスポイラーが標準で付きます。
もう一度クルマのすごさ、楽しさを知ってほしい。その思いから86は生まれました。
クルマに興味を持ち始めた若いユーザーはもちろん、かつてクルマ好きだった世代の人たちに、是非86のステアリングを握って欲しいと思います。
なにも峠でタイヤを鳴らす必要などありません。ギアをいれ、最初の交差点を曲がっただけで、軽快なエンジン音や、わずかなステアリグ操作でスッと向きを変えるノーズ、そしてカチッと決まる心地よいシフトに魅了されるはずです。乗り物を操るプリミティブな喜びがそこにあります。
トヨタは「スポーツカーは文化である」と言っています。ならば、スポーツカーを絶やさぬために、私たちユーザーも、文化としてのスポーツカーを愛し、育ててゆきたいものです。